全力のイーブンペースってできるもの?


pacetattoo_flickr_AlanLevine

先日、マラソンの世界新記録について記事を書いてる時に、中・長距離のレース中のペースコントロールのむずかしさを思い出しました。
ペースコントロールの研究は、身体と脳の相互作用なので とても複雑なだけに面白くもあります。

一般的なレース中のペースは“U”のグラフを描きます:スタートが速く、中間走が少し遅く、フィニッシュでまた速くなる。
例えば この下のグラフは、陸上800m~10000mの男子世界記録の平均ペース(2006年に研究した発表したデータ)です。

running-pacing

研究者はこのデータから、ペーシングは脳と関連してる証拠と見ています。 いつ終わるかが分かるまでは、脳がエネルギーをセーブしていると、、。

でも、これは理想的なペーシングではありません。 ベストを出すためには、できるだけゴールの瞬間に全てのエネルギーを使い切りたい(ゴール後に残してても仕方ありませんからね)。 ただ、人間は機械ではないので、なかなか毎回完璧にコントロールできません。
もちろん、最後でエネルギー切れって事態は避けたいところですが、、、。

ペーシングについての研究はたくさんありますが、今年三月に発表されたモノは 今までのとちょっと違います。
ランニング、サイクリングや他の持久系スポーツでテストするのではなく、力こぶの最大随意収縮(MVC: Maximal Voluntary Contraction)でのテストでした。
固定されたバーに全力でバイセプスカール(力こぶの筋トレ)をして、その数値を計る、、、みたいな。

MVCの興味深いところは、ペース調整がしにくいところ。
基本的には毎回100%の力を出しています。 そして筋肉(もしくは脳)が疲れてくると、一回、一回でだんだん出力が落ちてしまうのです。

研究方法:

30人(1年以上の筋トレ経験ある方)。
力こぶに全力で5秒間 力を入れる。 そのあと10秒の休憩。 を繰り返します。
参加者の全員、別々の日に3パターンをテスト(順番はランダム):

  1. 最初から「12回やってください」と言われてた (control コントロール)
  2. 何回かやるの知らされず、ストップを言うまでやり続ける。 12回でした (unknown condition 未知の状態)
  3. 「6回をやってください」と言われて、終わったら「もういくつをやってください」と言われてた。 これも結局12回でした(deception condition 欺瞞状態)。

そして、最後のレップの前には知らされた「ラスト1回!」。

結果

1. 出力

3パターンの出力:
mvc_pacing1

control コントロール
unknown 未知の状態
deception 欺瞞状態



予想通り ‘パターン3’は 6回のつもりだったので、スタート時から出力が高かった。
6回のつもりでガンバっただけに、エクストラの6回は全然ダメかと思いますが、後半の6回も高い出力が維持できた。 しかも他のパターンよりも高く、、、。
‘パターン2’は 何回やるのかわからなかったら、全体的に出力が低かった。
そして何れのパターンも、最後の1回は出力が上がっています。
これは、サイクリング(MVCではなく、6秒のスプリント)の研究(2011年)でも 同じ結果が出ました。

2. 筋肉の活性化
この下のグラフはテストのEMG信号データ。 (脳から筋肉への電気信号を計測)
これで、脳がどのくらい筋肉を収縮させようとしてるのかが判ります。

mvc_pacing2

出力のデータと同じように、100%の力出そうとしても、いつまでやらないといけないのかが分からなかったら、脳自体が遠慮しています。
そして、最後一回と分かったら、やはりEMG信号が上がります!
どのパターンでも、最後のレップと知らされたら(分かっていたら)、その直前のレップより高い数値が出ています。

おかしいのは、研究者は参加者に「すべて全力を出して」って常に言ってたのに、最後のレップで出力を上げられるという事。 つまり、それまでにも もっと出せた(‘出したつもり’だった)とも考えられます。

研究グループの所見:

このデータを見ると、参加者は知らされている情報(今回は回数)でペースコントロールしていたと考えられる。
これは、長距離走におけるペース配分の研究でも同様の結果がでています。
ペーシングパターンは、脳レベルでの意識なのか、無意識のガードがあるのか、、、

まとめ:

この研究の参加者は、すべて全力を出そうしても、コントロールせずにはいられなかった。

私がコーチングしてるときにもこんなパターンをよく見ます。

  1. 水泳の400m練習測定(普段ランと近いU形のパターン)のときに、最初の300mで使い切って(最後の100mイージーでもいいよ)と言っても、ペーシングの本能を無視できない。 泳いだ後で選手と話すと、抑えてるとは思わない(全力のつもり)けど、最後の100mになんかエネルギーが残ってる。
  2. 全員ではないけど 女性の選手が全力を出し切れない傾向があります。 オールアウトでもセーブしてます。

これは 不随意的な反応か ただの癖? 私的には、どちらかと言うと反応だと思っています。

皆さんもよくご存知と思いますが、スタートで突っ込み過ぎて 最後まで持たない事もあります。
また、身体(筋肉)自体にも限界があるので ペーシングが複雑になること。
けどこの研究から、ペーシングの行動が、ただエネルギー節約の意識だけではないとも考えられます。

ちなみに、私と練習したことある人は「サプライズ1本」がたまに出ますね 笑)。
例えばオールアウトの12x100mが終わった時に(死にそうになる)、1本(たまに2本)を追加します。
驚くのは、さっき泳いだ後半のスピードとあまり変わらない。
全力イーブン。 あなたが考えているよりも、意外にいけるのかもしれませんよ!!

Photo credit: “Alan Levine”. CC License.


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